SESという働き方を理解するうえで、避けて通れないのが IT業界特有の多重下請け構造です。
SESで働くエンジニアの多くが感じる
- 案件内容が選べない
- 評価が見えにくい
- 年収が伸びにくい
といった問題の多くは、個人の能力ではなく業界構造の影響によるものです。
この記事では、SESの仕組みを「多重下請け構造」という視点から整理し、なぜSESでさまざまな問題が起きやすいのかを解説します。
SESとはどのようなビジネスモデルなのか
SES契約の基本(準委任契約)
SESは多くの場合、準委任契約という形で提供されます。
準委任契約とは、成果物ではなく 作業そのものを提供する契約です。
そのため、契約上は「エンジニアが何を作るか」よりも「一定期間作業を提供すること」に重きが置かれます。
この契約形態では、エンジニア個人ではなく 会社と会社の契約として仕事が進みます。
エンジニアはその契約に基づいて、クライアント企業の現場で作業を行う形になります。
2020年の民法改正により、準委任契約では「成果報酬型」と「履行割合型」という考え方が整理されました。
ただし、現在のIT業界のSES契約では、実務上は依然として履行割合型(作業提供型)が圧倒的に多く、エンジニアは一定期間の業務提供に対して報酬が支払われる形が一般的です。
そのため本記事では、実務で多く見られる履行割合型のSES契約を前提として解説し、成果報酬型の詳細には触れていません。
SESと派遣契約の違い
SESとよく比較されるのが 派遣契約です。
両者は似ているように見えますが、契約上は大きな違いがあります。
指揮命令権
派遣の場合、業務の指示は 派遣先企業 が出します。
派遣社員は派遣先企業の指示に従って業務を進める形になります。
一方SESでは、契約上は 所属会社が指示を出す形 になっています。
そのため、顧客企業が直接業務指示を出す関係にはならないという建て付けになっています。
契約の形態
派遣の場合は 労働者派遣契約 に基づいて業務が行われます。
派遣会社と派遣先企業の間で契約が結ばれ、エンジニアは派遣社員として業務に参加します。
一方SESでは 準委任契約 が使われることが一般的です。
これは成果物ではなく、一定期間の 作業提供 に対して報酬が支払われる契約形態です。
業務上の立場
派遣の場合、業務上は 派遣先企業のメンバーに近い立場で働くことが多くなります。
社内メンバーと同じチームの一員として業務を進めるケースも少なくありません。
一方SESでは、エンジニアは 外部会社のメンバーとして作業を提供する立場になります。
そのため、業務の位置づけとしては外部パートナーに近い扱いになります。
報酬の考え方
派遣の場合は、基本的に 労働時間に応じて対価が支払われます。
エンジニアの勤務時間に応じて派遣料金が発生する形です。
SESの場合は、準委任契約に基づき 作業提供に対して報酬が支払われます。
現在のIT業界では、実務上は 履行割合型(作業提供型)の契約が一般的です。
なぜSESという形態が広く使われているのか
IT業界では、SESという形態が長年広く使われています。
その背景にはいくつかの理由があります。
まず、ITプロジェクトは 期間や規模が変動しやすいという特徴があります。
企業としては、必要な期間だけ人材を確保できるSESの仕組みは柔軟に使いやすいのです。
また、日本のIT業界では SIerを中心としたプロジェクト体制が長く続いてきました。
その結果、仕事は複数の会社を経由して進むことが多く、SESという形態が自然と広がりました。
商流とは何か
IT業界でよく使われる「商流」とは、仕事や契約がどの会社を経由して現場まで届いているかという流れを指す言葉です。
例えば、ユーザー企業から元請けSIerに発注され、その後一次請け・二次請けを経てSES会社に案件が届く場合、この一連の契約の流れが商流になります。
商流が長くなるほど、契約や情報が複数の会社を経由することになり、エンジニアの働き方や評価にも影響することがあります。
IT業界の多重下請け構造とは
IT業界では、ユーザー企業がシステム開発や運用を直接行うケースは少なく、多くの場合は複数の企業を経由してプロジェクトが進みます。

このように仕事が段階的に委託されていく構造を、一般的に多重下請け構造と呼びます。
まずは、この構造がどのように成り立っているのかを整理します。
元請け・一次請け・二次請けの関係
ITプロジェクトでは、まずユーザー企業が元請けとなるSIerに開発や運用を発注します。
元請け企業はプロジェクト全体の管理を担当し、実際の作業の一部を一次請けや二次請けなどの企業に再委託していきます。
このように仕事が段階的に分担されることで、複数の会社が同じプロジェクトに関わる形になります。
エンジニアが下流に配置されやすい理由
多重下請け構造では、プロジェクトの管理や意思決定は元請け企業が担うことが多くなります。
一方、実際の開発作業や運用業務は下位の企業に任されることが一般的です。
そのため、現場で作業を行うエンジニアは構造の下流に配置されるケースが多く、企業の役割分担として自然にそうなりやすい仕組みになっています。
商流が増えると起きる問題
企業の数が増えるほど、プロジェクトの商流は複雑になります。
契約や情報が複数の会社を経由するため、意思決定や情報共有に時間がかかることがあります。
また、契約単価も複数の会社で分配されるため、最終的に現場で働くエンジニアの待遇や評価に影響が出ることもあります。
SESで「案件ガチャ」が起きる理由
SESでは、同じ会社に所属していても経験できる仕事内容が大きく変わることがあります。
エンジニアの間でよく使われる「案件ガチャ」という言葉は、このような現場の当たり外れが大きい状況を表しています。
この問題は個人の能力だけでなく、SESという働き方の仕組みとも深く関係しています。
アサインが営業主導で決まることが多い
SESでは、プロジェクトへの配属は会社の営業担当が案件を獲得し、その案件にエンジニアをアサインする形で決まることが一般的です。
そのため、エンジニアの希望やキャリアプランよりも、案件の空き状況や契約条件が優先されることがあります。
結果として、自分の経験や希望とは異なる業務に配属されるケースが生まれます。
プロジェクトごとに仕事内容が大きく変わる
ITプロジェクトは企業や現場によって進め方が大きく異なります。
同じ「開発案件」であっても、設計中心の仕事になる場合もあれば、テストや運用作業が中心になることもあります。
このように仕事内容が現場ごとに変わるため、同じ会社に所属していても経験できるスキルに差が生まれやすくなります。
商流が長いほど現場情報が見えにくい
多重下請け構造では、エンジニアが実際に入る現場の情報が十分に共有されないまま配属が決まることがあります。
元請けや上位会社を経由して案件が伝わるため、仕事内容やチーム体制が配属後に初めて分かるケースもあります。
こうした情報の不透明さが、案件ガチャと呼ばれる状況を生みやすくしています。
SES構造がエンジニアのキャリアに与える影響
SESはIT業界の中でも一般的な働き方の一つですが、多重下請け構造や案件単位の働き方が、エンジニアのキャリア形成に影響を与えることがあります。
ここでは、SESという構造がどのような形でキャリアに影響しやすいのかを整理します。
経験できるスキルが案件に依存しやすい
SESでは、エンジニアが担当する業務内容は配属された案件によって大きく変わります。
そのため、同じ会社に所属していても、設計や開発に深く関われる場合もあれば、テストや運用業務が中心になる場合もあります。
結果として、経験できるスキルが案件によって大きく左右されやすく、キャリアの方向性を自分でコントロールしにくい状況が生まれることがあります。
評価が会社ではなく現場に依存しやすい
SESでは、日々の仕事は客先の現場で行われるため、エンジニアの働きぶりを最もよく見ているのは現場の担当者です。
一方で、人事評価を行うのは所属している会社になります。
そのため、現場で評価されていても、その内容が所属会社側の評価に十分反映されないケースが生まれることがあります。
この構造が、SESでは「頑張っても評価されにくい」と感じる原因になることがあります。
SESで年収が伸びにくい理由については、「SESで年収が上がらない理由|努力しても伸びにくい構造」の記事でも詳しく解説しています。
キャリア設計を自分で考える必要がある
SESでは、会社が明確なキャリアパスを提示するケースもありますが、案件単位で働くスタイルのため、長期的なキャリアは自分で考える必要がある場面も多くなります。
そのため、どのような経験を積みたいのか、どのタイミングで環境を変えるのかを意識しながら働くことが重要になります。
構造を理解したうえで、実際にどんな力を身につければSES卒業につながるのかは、「SES卒業に必要なスキルセット|転職で評価される“現実的な能力”とは」で整理していますので、参考になればと思います。
まとめ|SES構造を理解してキャリアを考える
SESという働き方は、日本のIT業界では広く使われている仕組みですが、その背景には多重下請け構造や案件単位の働き方といった特徴があります。
その結果、エンジニアの経験や評価、年収が案件や商流の影響を受けやすい側面があります。
重要なのは、SESという働き方を感覚だけで判断するのではなく、業界の構造を理解したうえでキャリアを考えることです。
構造を理解していれば、どのような経験を積むべきか、どのタイミングで環境を変えるべきかを冷静に判断しやすくなります。
SESの働き方やキャリアについては、「SESの案件ガチャの実態」や「SESから抜ける方法」の記事でも詳しく解説していますので、あわせて参考にしてみてください。
