36歳前後になると、ITキャリアはポテンシャルではなく、これまでの経験と再現性で見られるようになります。
一般的には「SES → 自社開発 → 情シス(社内SE)」というステップが王道だと語られがちです。
しかし、これは主に20代や開発経験を積みやすい環境にいる人向けの話です。
30代後半、特にSESに長く在籍しているエンジニアにとっては、そのルートがそのまま通用しないケースも少なくありません。
私自身、SES・社内SE(情シス)・自社側の開発・マネジメントをすべて経験してきましたが、その中で強く感じたのは、「この年代では、理想よりも再現性を優先した方が結果的に選択肢が広がる」という事実です。
この記事では、36歳からITキャリアを考える人に向けて、なぜ「SES → 情シス → 自社開発」という一見遠回りに見える順序が、現実的で再現性の高いルートになり得るのかを解説します。
「自社開発に行きたいが、今のままでは厳しいと感じている」
「情シスに進むのはキャリアダウンなのではと迷っている」
そんな不安を持っているなら、この先を読むことで “今の立場から無理なく前に進む考え方” が見えてくるはずです。
なぜ一般的には「SES→自社開発→情シス or コンサル」が王道とされるのか
ITキャリアの文脈では、「SES → 自社開発 → 情シス or ITコンサル」というステップが、いわゆる“成功ルート”として語られることが多くあります。
この考え方が広まっている背景には、キャリアの積み上がり方が非常に分かりやすい という理由があります。
まず、SESは
- IT業界への入口になりやすい
- 現場経験を早く積める
- 開発・インフラ・運用など幅広い案件に触れられる
といった特徴があり、実務経験を積むフェーズ として位置づけられがちです。
次に、自社開発です。
自社プロダクトを持つ企業では、
- 技術選定に関われる
- 設計から実装・改善まで一貫して携われる
- 成果がプロダクトとして残る
ため、「技術力を高めるステージ」 として評価されやすくなります。
この自社開発経験を経たうえで、
- 社内のITを統括する情シス(社内SE)
- 上流工程や提案を担うITコンサル
へ進むことで、「技術が分かる上流人材」 という分かりやすいキャリアストーリーが完成します。
特に20代〜30代前半では、「技術力を一度しっかり伸ばす」「その後に上流や安定ポジションへ移る」という流れが理想とされやすく、このルートは 理論上も非常にきれい です。
つまり、「SES→自社開発→情シス or コンサル」 が王道とされるのは、キャリアの段階ごとに「役割」「スキル」「評価軸」が明確にステップアップしていく構造になっているからです。
ただし、この王道ルートは「比較的若いうちに自社開発に入れる」ことを前提 に成立している点も、ここで押さえておく必要があります。
最近ではこの「王道」にも少し変化が出てきており、より自分に合ったキャリアを目指しやすくなっています。
- コンサルから自社開発への逆流:「口を出すだけでなく、自分でサービスを作りたい」というニーズから、コンサルから大手事業会社のテックリードへ転職するケースも増えています。
- 「情シス」の定義の変化:単なるPC管理ではなく、「コーポレートエンジニア」として、SaaSを駆使して全社の生産性を爆上げする高度な専門職としての地位が確立されつつあります。
- SESの質の向上:「モダンな自社開発に近い環境」を提供する高単価・高還元SESも増えており、無理に自社開発にこだわらなくてもキャリアを築けるようになっています。
30代後半になるとIT転職の評価軸は「ポテンシャル」から「再現性」へ移る
近年、ITキャリアの選択肢が広がっているのは事実です。
ただし、30代後半でSESに在籍している人にとって重要なのは、「選択肢が増えたこと」そのものではありません。
重要なのは、今いるSESという立場から、次にどんな役割へつながるのかが採用側に説明できるかどうかです。
30代後半になると、企業は「どの業界にいたか」「どんな肩書きだったか」よりも、SESで何を任され、どんな価値を出してきたのか を見ます。
そのため、
- 開発案件に関わっていたとしても
→ 「プロダクト全体の中でどの役割を担っていたのか」 - モダンな環境の現場だったとしても
→ 「業務や仕組みをどう改善したのか」 - 単価が高い案件だったとしても
→ 「誰の課題をどう解決していたのか」
といった点が整理されていなければ、次のステップにつながりにくくなります。
多くの人が、「自社開発に行けないのはスキル不足だからだ」と考えてしまいますが、実際にはそうではありません。
問題は、SESで積んできた経験が“次の役割”としてどう再現されるのかが見えにくい状態になっていることです。
SES在籍のまま自社開発を目指すと詰まりやすい理由
自社開発を目指すときに感じやすいのが、「何か足りない気がするが、何が足りないのか分からない」という状態です。
多くの場合、SESでの業務は
- 運用・保守
- 既存システムの改修
- 手順に沿った作業
- 補助的な開発
といった形になりやすく、自分の仕事がプロダクト全体のどこに位置しているのかが見えにくくなります。
その結果、職務経歴書ではやってきた作業は書けるが、「何を任されていたか」が説明できない、という状態に陥りがちです。
自社開発企業が見ているのは、言語やツールの名前ではなく、
- どんな役割で
- どんな課題に対して
- どう判断し、どう改善したか
という点です。
しかし、多くのSESでは、技術選定や設計判断などの、プロダクトの意思決定に関われる場面は限られます。
そのため、スキルが足りないというより、「語れる経験が作りにくい構造」が詰まりの正体になります。
この状態で自社開発だけを狙い続けると、
- 書類が通らない
- 面接で話が噛み合わない
- 自分の市場価値が分からなくなる
という悪循環に入りやすくなります。
ここで大切なのは、「もっと頑張ること」ではありません。
一度、評価されやすい役割を明確に作ることです。
なぜ情シス(社内SE)が“現実的な一手”になるのか
30代後半でSESに在籍している人にとって、情シス(社内SE)は「守りのキャリア」に見えがちです。
しかし実際には、これまでの経験を最も評価に変換しやすいポジションでもあります。
SESで培われるのは、高度な開発力というよりも、運用・保守、障害対応、ユーザー対応、関係者との調整といった現場を回す力です。
情シスはまさに、こうした力を前提に成り立つ職種です。
また、情シスでは「自分が何を任されているのか」が明確になります。
社内システムの安定稼働、業務改善、ベンダーコントロールなど、責任範囲がはっきりしているため、職務経歴として説明しやすいです。
これは、SESで感じやすい「頑張っているのに評価されにくい」状態から抜け出すうえで、非常に大きなメリットです。
情シスを経由するとキャリアの選択肢がどう広がるか
情シスを経由する最大の価値は、キャリアを“固定”することではなく、次につながる経験を作りやすくなる点にあります。
情シスでは、「業務フローを理解する」「改善ポイントを見つける」といった経験を積みやすく、これは自社開発や事業会社においても評価されやすい実績です。
特に重要なのは、「業務を理解したうえでITを使える人」 という立ち位置を取れることです。
これは、単に技術ができる人よりも、30代後半以降では価値が伝わりやすい強みになります。
結果として、
- 情シスを続ける
- 社内の開発寄りポジションへ寄る
- 自社開発企業へ挑戦する
といった複数の選択肢が見えてくるようになります。
SES→情シス→自社開発が向いている人・向いていない人
このルートは、すべての人に向いているわけではありません。
向いているのは、
- 今のSESで「役割が見えにくい」と感じている人
- 開発一本に強い自信はないが、現場経験は積んできた人
- 失敗できない状況で、再現性の高い一手を選びたい人
です。
一方で、
- すでに自社開発で中核を担えるスキルがある
- 強い開発志向があり、環境を選べる立場にいる
場合は、無理に情シスを挟む必要はありません。
重要なのは、「どのルートが正しいか」ではなく、「今の自分にとって次につながるか」 という視点です。
30代後半のキャリアでは、遠回りに見える一手が、結果的に最短になることもあります。
情シスは、そのための現実的な選択肢のひとつです。
36歳からキャリアを組み直すときに意識すべきこと
36歳前後になると、ITキャリアは「やりたいこと」よりも「次に何を任せてもらえるか」 という視点が重要になります。
若い頃のように、理想のキャリアを一直線に描くのは難しくなりますが、その代わり、これまで積み上げてきた経験をどう組み替えれば価値として伝わるか を考えるフェーズに入ります。
SESでの経験も、情シス(社内SE)での経験も、それ自体が正解・不正解になるわけではありません。
大切なのは、今の立場から、次につながる一手になっているかどうか です。
30代後半のキャリアでは、遠回りに見える選択が、結果的に選択肢を増やすこともあります。
情シスを挟むルートも、そのひとつの可能性にすぎません。
もし今、「自社開発に行けない自分はダメなのではないか」と感じているなら、一度立ち止まってキャリアの組み方を見直してみてください。
今の経験をどう積み直せば、次の選択肢が広がるのか。
その視点を持つだけでも、キャリアの見え方は大きく変わります。
36歳からのIT転職全体像を整理したい方は、「36歳からのIT転職ロードマップ」 もあわせて参考にしてみてください。今の立場から取れる現実的な一手を見つけるヒントになるはずです。

